1995.07.011995~2007「源生林あしたば」誕生秘話
伊豆七島。原産地は八丈島。長寿の薬として地元の人から親しまれている薬草がありました。摘んでも翌日には葉が生えてくるという、脅威の生命力を持った薬草。その名も明日葉と言いました。明日葉はたいそう薬効成分の高い植物で、かつては不治の病と言われた癌を発病させない力、高齢化によって問題視されてきたアルツハイマーの予防効果、愛煙家に危惧されている脳梗塞の予防効果、抗血栓作用、女性に嬉しいセルライト予防によるダイエット効果、冷え性予防効果など、現代人の生活病を防ぐ効果を持った野菜なのです。
亜熱帯気候の伊豆諸島にのみ生息するその野菜は、その地域以外に住む人たちはほとんど口にしたことはありませんでした。八丈島に遊びに来ていた和地さんは明日葉に出会い、「なんとも良い香りのするその野菜を、全国の人に味わってもらいたい。」と考え、その苗を持って帰りました。
和地さんは植物の新品種を開発する仕事をしています。通常であれば、植物の種子に放射線をかけて遺伝子内での突然変異を起させ、新たな品種が生まれることを期待しながら、発芽をさせます。ところが有機無農薬でのおいしい野菜作りをモットーとしている和地さんは遺伝子組み換えにも値するような“自然の摂理に背く”開発の仕方は好きではありません。また、害虫に強い品種と実が甘くなる品種など異なる特長を持った二つの品種を交配させ、ひとつの優れた品種を作り出す方法もありますが、今回の開発には役立ちませんでした。なぜなら、明日葉は限られた生息地域にしか存在しないこともあり、世界にもたった一品種しか存在しないため、良いもの同士を掛け合わせることができないのです。根気よく栽培を行い、環境に適応できる品種を残して良いものに育て上げてゆきます。亜熱帯植物から、寒い地域でも育つ品種を見つけること、それは一粒のダイヤモンドをサハラ砂漠の中から見つけ出すような、はてしない作業でした。

和地さんの地元は茨城県。北関東とはいえ、夏には気温37℃まで上がります。冬は-7℃にまで下がるという過酷な環境です。その中で耐えられる品種を見つけるため、それはそれはたくさんの苗が植えつけられました。育てては種を採り、撒いては育ての繰り返し。とめどない宝探しへの旅が始まりました。
明日葉は亜熱帯植物であるが故、寒さの厳しい冬季には枯れてしまいます。これに備え、和地さんは小トンネルを作りました。関東の刺すような寒風も、これなら避けることが出来ます。ところが、そんな心遣いもおかまいなしに、ある日、この地に雪が降ったのです。元々寒さには弱い明日葉の様子が心配されましたが、しんしんと降り積もる雪が、止むことは決してありませんでした。
この日、関東全域が寒冷前線の降下により、稀なる大雪に見舞われました。明くる朝、様子を見に外へ出た和地さんはがっくりと肩を落しました。雪の重みで、トンネルが潰されてしまったのです。あまりの雪の多さに手の施しようもなく、そこに立ち尽くすしかありませんでした。バタバタと株は倒れ、折れたまま腐っては消えて行きました。一本、一本と明日葉が消えていくのを目の当たりにしながら、どうすることもできませんでした。しかし、この時に、雪原の中で、次々と新芽を吹き出す明日葉が、たった一株だけ見つかりました。これが後の新品種明日葉となりました。

従来品種よりも、ずっと冬の寒さにも強く、香り高く、やわらかくて甘味のある美味しい品種、それが新品種「源生林あしたば」です。茎も柔らかく、煮ても黒色に変色することなく、鮮やかな緑色のまま食べられます。薬効成分であるカルコン、クマリンも十二分に含み、子どもからお年寄りまで皆さんに美味しくお召し上がりいただけますので、健康的な食生活をバックアップする野菜として、一般家庭の食卓に並ぶ日もそう遠くはないでしょう。
